2010年1月27日水曜日

クローン


くたびれた畳敷きでちょっと薄暗くて天井の低い、急ごしらえの集会場の様な場所で
地味な宴会が開かれていた。
横長の机を何台もくっつけて布団を掛けて炬燵仕立てにしてある。
私の隣には、ハマタケさんがぼんやり座っていた。

しばらくすると気がふれた女が乱入してきた。

半狂乱の形相で「タケシはどこ、隠れてもダメよ」と言いながら、
コタツ布団をすごい勢いであちこちめくる。
「タケシ」がどこにも居ないとわかると「もうタケシとあの女から永遠に幸せを奪ってやる、そのためにこうしたのさ」
と言いながら紙袋から何かを…とりだした。

「あ、彼女は殺したタケシの赤ん坊の首を持ってきたんだ、その首を今から高く掲げるつもりだ…」
私は直感的にそう思い、ハマタケさんの目を覆った。
「だめだ、見ちゃいけない」
自分も見たくないので目をつむった。掌に、ハマタケさんの額から出ている汗の感触が伝わってきた。

突然彼女がゆったり落ち着いた声で「はあ、こういう見せ方もあるのね」とか言い出したから思わず手を離し、
私も目を開けてみると、そこはギャラリー空間にになっていて
さきほどの惨事はすべて象徴化されたオブジェ作品になっていた。

天井近くに吊された、ゆりかごの様なモノに、張りぼての丸いモノが入っていて、ころころ動いている。
並んだ人達が順番に「ちょっと有り難いモノ」であるかの様に見上げていた。

向こうの方にギャラリーレクチャーをやっている学芸員と客の一団が見えたので、「それとなくついて回ろう」
と思ったんだけど、さりげなく近づこうとしているうちに彼らはさっさとエレベーターで降りていってしまった。

その脇に階段室があった。ロの字型にず~っと下の方まで続いている。
手すりが実用新案らしく、スライドして動くプラスチックの取っ手をタイミング良く順番に操作することによって、
連続して手すりに腰掛けたまま下まで降りていける仕組みだった。
ガウンを着た英国人の老人が二人、慣れた様子でサーっと降りていった。
この美術館(か何か)に泊まり込みで研究している学者達だろうか…
自分も試してみたのだが上手く行かず、1階分降りたところでとりあえず断念した。
その階はさっきとは違い、なんだか閑散としていた。
大きな吹き抜けのある場所、吹き抜けの周りには、透明アクリルの大きな平たい箱が並んでいる。
冷たい白い光に浮かんでいた。

目を凝らすと手がうごめいているのがみえた。一つ一つの箱に人間?が入っているのか。
あれ、なんだか…出てきそうだぞ…

この階はどうも不味い予感がしてきたので、立ち去ろうと思うのだけど階段がみあたらない。
仕方がないので、目についたドアを開けてみた。
開けてみると薄暗い照明の廊下。
その先右側にちょっと光がみえたので行ってみると、広~い空間が広がっていてそこには何百もの先程見た人間(なのか?)達が全裸で蠢いていた。
薄ら笑いを浮かべてユラユラ動きながら、ちょっとずつ近づいてくる。
目つきからして、ちょっと脳に欠陥があるのかもしれない。
ほとんど同じ顔なのでクローンなのかもしれない。

戻ろうと思ったらさっきのドア、こちら側には取っ手がなかった。

「ああ、夢なら覚めないかな…でも夢じゃないよな」そんなコトを思った瞬間、廊下の片側の壁がどんでん返しさながらに、外向きにバ~っと倒れた。
芝生の緑が目に飛び込んできた。外は金網に囲まれた屋外運動場だった。
クローン達は定期的に運動しなくてはならず、そのために自動的に開いたらしい。

金網を登って脱出するコトにした。
そんなに高さはないんだけど、クローン達はちょっとアタマが弱いらしく「よじ登る」というコトが出来ないらしい。
まっすぐ金網に前進してきて、ぶつかって、戻って行った。
その間もなんとなく薄ら笑いを浮かべている。

裸のクローン達を後に「脱出してきた」コトをまわりに悟られないように(なぜ?ハハハ)筑波学園都市の郊外の様な雰囲気の道をとにかく歩いた。

先に高校があるみたいだ。
仲間が(いつの間にか4人組になっていた)
通りがかった「身体は大きいが気が弱そうな二人組」を脅して、
その高校の制服を持ってこさせるコトにした。
「おい、おまえの高校で人気がある四つの運動部のユニフォームを一つずつ、今すぐ持ってこい」
言いながらも、ビシ、ビシと殴っている音が聞こえてきた。
「そんなに殴らなくても…でもやっぱりそれくらい徹底しないと言うことを聞かないのかな。なるほど、脅し慣れているヤツはやり方が徹底しているモノなのだな。」
高校に潜入して、あわよくば人気者になろう…という不思議な作戦らしかった。

しばらくして届いた服を道の脇にあった小屋で着替え始めた。
「でも、四人が四人とも違うユニフォームで行くとかえってヘンじゃないのかな…」

とぼんやり考えながら、紫が基調のバドミントン部の服に着替えていた。

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