2005年2月27日日曜日

真昼の好敵手



恐ろしい殺人者(というより宇宙から?のプレデターとい方が近い。少なくとも人間ではない)に追われ、ちょっと愚図な相棒と大きな倉庫に逃げ込んだ。
カラッとした日差しがそそぐ、真昼のコトだ。

とりあえず、倉庫の入り口近くにあった‘白い布団袋に入った何か’を
片っ端からうず高く積み上げて、簡単に入ってこれない様にするコトにした。もしもこっちに気がついてやってきたら、そこで手間取っている間に裏口から逃げる寸法だ。
どれくらい時間が稼げるか分からないけど。

とりあえず、かなり積み上げたので通風口からちょっと外の様子を伺ってみるコトにした。

かろうじて人間の形をした黒っぽい芯、の周りから炎が吹き出している物体は、歌う様な声を発しながら楽しそうに半ば狂ったように走り回っている。
泥がすっかり干上がった砂漠の様な地帯、真昼の日差しの中。

突然、空から巨大な巨大な深海魚(鱗が光線の加減で金色にも見える)がアタマから地上に刺さる様に降りてきて、暗殺者に挑みかかった。尻尾は、はるか上空にまで伸びていて見えない。
傲慢な紳士がステッキの先でアリを殺そうとするごとく、暗殺者の上にトントンと襲いかかる。
顔の縦幅だけで7メートルくらいありそう。
ボーリングハンマーのような動き。

真昼の、砂漠の様な荒れ地。炎を発する人。金色の鱗の巨大深海魚が空から…20世紀後半のシュールレアリストの絵画の様。
「これはいい勝負かもしれない、よしよし…」と思ったのもつかの間、ちょっと目を離した次の瞬間に、巨大な深海魚は全長10メートルそこそこの龍に変化して空中にフワフワ浮きながら暗殺者の後ろに従い、もう一つの倉庫に入っていくのが見えた。
「中で一対一でケリをつけようや…」という話になっているらしかった。とんでもないモノ同士、何か通じるモノがあったのだろう。
後ろ姿には早くも好敵手同士に芽生える友情の様なモノが漂っていた。

「いまのうちに出来るだけ遠くに逃げた方がいいだろう」と考え、
彼らが倉庫のドアから入ったタイミングを見計らい、加速装置をオンにして(私には付いているが相棒にはついていない…まあ、なんとかなるだろう)
倉庫を飛び出し逆方向へすごい勢いで走り出した。一気に周りの風景が流れる様に歪む。
が、しばらくするとそれは無駄だと分かった。私が逃げるべき方向、その先の空間はちょうとチーズケーキのワンピースの様に先細りになっていて、その同じ空間が
ケーキの様にグルッと周囲を取り囲んでいた。
左右にグルッと取り囲むように、モチロン正面にも全速力で走る私がいて、チーズケーキの先端以上は進めない。

何者かのしかけた罠…というよりこの加速装置特有のバグなのかもしれない。
「一定速度を超えるとこうなってしまうのだ…」と
その瞬間にアタマの中で、既に承知のコトとして理解した。というか知っていた。

でも諦めて走るのを止めたとたんにその空間の歪みは消失して、
右側に小さい切れ目が現れたので、その中に入ってみた。
もう、暗殺者とは無縁の平和な郊外、埼玉県の奥の方らしかった。
畑の向こうに、屋根に大きな大きな歯車を乗せた木造の民家がある。
歯車はゆっくり回転していて、家全体もそれにそって傾いて回転している様にみえる。
近づいて…中に入ってみると壁は全部、その歯車から釣り下がっている簾状のモノで、夕方の日差しや、心地よい風が、簾を通して入ってくる。
なんなんだろう…その地区に伝わる、伝統的な造りらしかった。
なんらかの宗教的な意味も込められているらしかった。

主人が満足そうな顔でお茶を勧めてきたので、一緒に飲んだ。
しばらくすると風も強まり、ちょっと寒くなってきた。
「夏ももうじき終わりだな」ちょっとだけ寂しい気持になった。