2005年1月9日日曜日

ジロウとタスカン


何かのパーティーの帰り、ジロウが車で来ているというので、ついていった。駒沢通り槍ヶ崎交差点〜恵比寿間の様な場所に路駐してあるのはパールブルーの新車のタスカンだった。
どうしたの?と聞くと「冗談半分でローンを申請したら通ったのでとりあえず買ってみた」と笑みを浮かべながら言う。
お金もないのに、大丈夫なのか。ジロウは全く気にしていない。
でもその車がジロウのモノであるコト、は自然な当たり前のコトにも思えた、と同時に、確かにそれは気にしなくてもいいコトなのだと思えた。

内装はタンだった。細い横畝がはいったバケットタイプのシート。走りながらジロウは「ああ、ここはこうなっているんだ…」とか「なるほど…」とか、いつもの冷静な口調で盛んに呟いている。ホントに買ったばかりなのだ&ちょっとアブナイんですけど。

予想とは裏腹に滑るように静かに走る。目の詰まった低く太いエンジン音がかすかに聞こえてくる位。
どうやらタスカンの形をした、別の車の様だった。
ライトが点いていないのか道が暗い。でもジロウに言うと「僕には見えているよ」みたいなコトをいう。ホントにそうなのか、彼流のうそぶきなのか分からなかった。

そのうちトンネルにはいって、何回か分岐を経た先、路上に崩れた瓦礫がぼつぼつ落ちている。
「これは底をこするぞ」と思ったら、彼はその手前で車を止めた。
道の真ん中。降りるつもりらしい。
「セキュリティーボタンを押してくれよ」と言うのだが、ドアに三つついているボタン状のモノはどれも小さくて、機能もよくわからない。もう一度教えてもらうと声が「そんなコトもわからないのか…」みたいなムードいっぱいになっていた(笑)
それはドアノブのすぐ下についている、5ミリくらいのドームトゥイーターにしか見えないスイッチ?で、円周に沿って小さくセキュリティー何々…と英語で書かれている様だった。分からないよ(笑)これじゃあ。
ボタンを押すと、作動中のランプが三つ、点滅し始め、同時にウインドウが半分くらい下がって止まった。
(どういうセキュリティーなんだ…)

ボタンに集中しているうちに、トンネルの中から路上になっていた。埼玉の何処からしい。Y字路の真ん中に車は止まっていた。もう瓦礫は無かった。時間はお昼頃になっていた。

ジロウは何も言わず、すぐ横に建っている、真っ黒の、木造なのに4階建て、所々に正方形の窓がはめ込まれた建物に入っていった。

とりあえずタスカンを携帯で撮って日記にアップしようと思い、私は車の周りをうろついてポジションを探した。
上の方から「あそこにいるのは、アーティストってやつに違いないよ」と声がする。見上げると、建物の途中に小さいベランダ状のモノが突き出していて、そこから地元の住人たちか覗いている。

軽く会釈して、再び携帯を構えたりしているとベタっとしたモノがアタマの上に何か落ちてきた。太い毛糸によく噛んだガムを絡めた様なへんなもの。髪の毛についてなかなか取れない。どうやらベランダに「下を歩いている人に何かいたずらしましょう」とかなんとか書かれた札がかかっているらしい。

このヘンな建物でジロウがワークショップを開催しているのだった。

それっぽい女の子が私の横に来て「この車をバックにジロウさんのサインと一緒に写真が撮りたいですぅ〜!」なんて言い出すので「じゃあ、どうせなら本人がいいでしょ?中に入ろうよ」と一緒に中に入ると、中にはさらにそれっぽい(笑)男女でいっぱいだった。やたら親しげに話しかけてくる女性もいて、どうやら昔付き合ったコトのある女性らしかったのだが、名前が思い出せない。困ったな…

しばらくすると、今度はジロウの提唱している(実際はしていないと思うけど(笑))マラソンをしながらアートを鑑賞する、というイベントの時間が近づき(精神状態の変化、芸術と健康増進の合致など、いろいろ御託があるらしかった)山伏っぽいデザインのジャージに着替えたジロウを先頭にどんどん外に出て行く。

私も一緒に外に行きたかったんだけど、先ほどの女性や、飲み屋の主人ふうの熱心な地元の主催者などに話し込まれてしまい、なかなか解放してくれない。中がどんどんガラガラになってきて、私と主催者と、その奥さんらしいフィリピーナの三人になってもまだ、話は続いた。もう、マラソンは出発してしまっていた。