2008年10月28日火曜日

錦鯉


引っ越してきてからここ半年以上
ずっと手付かずだった奥の部屋を整理したいと思った。
もともと家財道具は少なくメインで生活している手前の部屋も充分ガランとしているけど
すぐには使わないモノを全部、奥の部屋に整頓して押し込んでしまおうと思ったのだ。
こういうコトは思い立ったらすぐやらずにはいられなくなるタチだ。

どうしてなのか…奥の部屋は前の住人の痕跡がいろいろ残ったままだ。
引っ越しする度に、こういうコトは今まで何度かあったけど。

例えば左の壁のちょっと高いトコロに後付けした意味不明の違い棚、まあこれはヨシとして…
突き当たりの壁一面に、点々と写真とそれに付随した一言コメントがノートを細長く手で千切った様な紙に書いて張ってあるのだ。

第二次大戦中のヨーロッパ、休暇中の兵士が地元の女性達と撮ったスナップ、という雰囲気のモノが多かった。

メモ書きには voia oue aisとか、何語かよく分からないけど響きの良さそうな短い言葉が、細いクレヨンみたいな筆跡で綴ってあった。

右端には古い洒落たギャング映画の大きなポスターが張ってある。

今まで全然気が付かなかったんだけど、注視していると人物がゆっくりループで動いている!

「あれっ?」と思って振り返ると部屋の入り口付近、机の上うずたかく積み上がった
PC雑誌やソフトの箱のてっぺんに置いてあるプロジェクターからこちらに投影している…

三コマくらいが上手い具合にクロスフェードして動いている様に見える仕組みらしかった。
確かにカシャカシャいっている。

引っ越して以来、ずっとこの電気代を払っていたのか…
さらに見ていくともう一枚、やはり動く小さいポスターがあって、振り返るとそれもやっぱり小さいプロジェクターが投影していた。

突き当たりの壁は大きな三枚のパネルで出来ていて微かな隙間があった。
覗いてみると部屋から漏れ射し込む光くらいではまだ奥まで達しないらしく、真っ暗だ。
どうやらそこそこ広い空間がまだその先に広がっているらしい。

いつの間にか大家さんがクリーム色の作業服を着たおじさんを従えてやってきている。

左の壁をとりあえずハズしてもらう。
そこにはタンスと、その上に大きめの水槽があった。ここにも電気が通っていて、ポンプなどは正常に作動している。澄んだ水の中、色鮮やかな死骸が積み重なっていて、
その上にほんの少しだけ、生き残った魚がゆっくり漂う様に泳いでいた。
真っ暗な中で死んだ魚を食べてこれまで生き延びてきたらしかった。

真ん中のパネルをはずすとガラスが湾曲した大きな水槽があった。こっちの水槽には沢山の魚が泳いでいた。巨大な金魚と、小さくした錦鯉ふうが沢山泳いでいた。
久々に射し込んできた光に、鮮やかな白と赤の模様が艶めかしい。死骸もそんなに見あたらなかった。

エサも与えられずに真っ暗な中で今までどうやって生きてきたのだ?

一瞬綺麗に思うのだけど、全体としてやっぱり気持ち悪いし、どうにかしたい。

でも見に来た大家さんはどうも
「このまま放っておきたい&もしも撤去したくても費用は一切払わない」つもりらしかった。

明らかにそういう顔をしていた。

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