2008年5月4日日曜日
2007年11月26日月曜日
月下柳 初冬の満月夜
とにかく冬の月は圧倒的。
季節は冬だけど月の季節は夏。そんなムード
真上まで高く登る月の光は、
澄んだ空気の中をほとんど劣化するコト無しに突き進んできて
地上に張り付く。
夜中の真昼。
乾いた、微かないい香りのする大気を味わいながらいつまでも歩く。
ひがし茶屋街、螢屋前の広見に立つ柳越しに望む天頂の月。
季節は冬だけど月の季節は夏。そんなムード
真上まで高く登る月の光は、
澄んだ空気の中をほとんど劣化するコト無しに突き進んできて
地上に張り付く。
夜中の真昼。
乾いた、微かないい香りのする大気を味わいながらいつまでも歩く。
ひがし茶屋街、螢屋前の広見に立つ柳越しに望む天頂の月。
2007年10月15日月曜日
2007年9月23日日曜日
2007年6月28日木曜日
2007年6月27日水曜日
2007年4月7日土曜日
2007年3月4日日曜日
伊集院一族
京都の遠い親戚の家で、年に一度の多くの人達のあつまる行事が終わってバタバタと大勢が帰っていく中に私はいた。
広い三和土にはどれもこれもソックリの光沢のある黒いずんぐりした靴がごちゃごちゃ並んでいた。
自分の靴が見当たらず、側にいた女中なのか遠い親戚なのか分からない着物の女性に尋ねてみるとひときわ大きいずんぐりした靴の口に突き刺す様に入っている私の靴を出してきた。
どういう収納法なのかよく分からない。
他にもそういうふうにしてある靴がいくつもあった。
打ち水の撒かれた門までの飛び石の、
窪みにたまった僅かな水に弱い白熱灯の光が反射していた。
表は路面電車通の通る広い道、
城跡が近いこの辺りは木も多く、夜の始まりのいい香りのする風が漂っている。
間もなく花火がかなり近くで上がり始めた。
思わず見とれたが、辺りの人達は毎日のコトだからなのか特に観ている様子はなかった。
もう一つの靴を忘れていたコトを思い出し取りに行く。
そういえば私はここにしばらく滞在していたのだ。
戻ってみるとほんの僅かの時間しか経っていないのに、残っていた靴は全て箱に入って三和土と床板の間の隙間に二箱づつきっちり収まっていた。
せっかく片づけたのに、何をしに戻ってきたのか…と女中さんが二人、怪訝そうにしている。
探すのにすっかり手間取ってしまい表に戻ってくると、
友人達の様子がちょっとおかしい。
玄関脇の薄暗がりで私を取り囲み、独り言の様に地味に文句を言いはじめた。
どうやら乗るハズのバスに乗り遅れたらしい。
通りの向かい側のバス亭にはさっきまで大勢いた人達がキレイに居なくなっていた。
「あのバスを逃したせいで15分も無駄になる」とか、
「30分も待つコトになるなあ〜」などとまちまちなコトを言っている。
このまま文句を言わせておくのもな…。
計算してみてそんなに高くつかないコトが分かったので
流しのレンタカーを拾う。
(サスガ観光地京都だ。そんなモノがある)
運転していた学生アルバイト風の男は無愛想な顔のまま歩いて何処かへ行ってしまった。
クラウンをふやかした様なカタチなのに、乗り込んでみると運転席が最近自分が買い換えたばかりのドイツ車にソックリでしっくりきた。
うろ覚えの通りを右折左折しているウチに、いつの間にか真昼の様な白い明るい日差しの中を走っていた。
前は延々自分の拾った車と同じカタチの白い車がゆっくり連なって走っている。
陽炎の中、車列の前方に行くに従って蜃気楼の中のごとく距離感が喪失していた。
気が付くと反対車線を走っていた。
何台かこっちを向いて走ってくるけど、いっこうに距離は縮まらない。
左車線に戻ろうにも、車でいっぱいだった。
しばらく進むと、道路上に全部ウレタンで出来ている様な制服を着た交通警官が何人も立っていて、その誘導で今度は四車線の道を一車線づつ入り乱れて通行するコトになった。
でも一台一台がムカデの節みたいに繋がっているかの様に動いていて、
事故になりそうなカンジは一切なかった。
警官の顔はみな夜店で売っているお面みたいにツルツルしていた。
ますます距離感は喪失していき、
進んでいるのか止まっているのかすら分からない位になった。
大きなブラインドカーブを曲がると広場に出た。
先行車は一切消えて、また静かな夜に戻っていた。
当てずっぽうに一番広そうな左の道を行ってみると、間もなく薄暗い見捨てられた駐車場の様なスペースで行き止まった。
あんなに道路を埋め尽くしていた他の車はどうやら本格的に消えたみたいだった。
しょうがないのでまた広場に戻ってみた。
ちょっとだけ降った雪をかき集めて子供達が空き地に作ったスキー練習場の様な、
でたらめな勾配で構成された小さな盆踊り会場くらいの広場を中心に古い石造りのお店が並んでいた。
ほとんどの店は明かりを落としていて、
奥に人の気配はする店はあったけど通行人は全くいなかった。
チョゴリの様な配色の大きな垂れ幕をいくつも垂らした、中では一番大きなお店も、もう閉店が近いのかその垂れ幕を照らすライトは消灯しており、暗い空から何本も黒い滝が降りている様だった。
髪を短く切りそろえた中年の痩せた黒い服の店員が一人 愛想笑いを浮かべるでもなく、こちらを見ながら立っていた。
とりあえず、車を曖昧な角度のまま止めて一人が様子を聞きにいくコトにした。
後ろの席に残った内の一人は、さっそく携帯で友人に電話をし始めた。
その友人にはすぐ連絡がついたものの、共通の友人であるはずの‘中村’なんて知らない、
そもそも私達には‘な’で始まる友人などいないよ。と言われた。
私が携帯を取り出してみると、自分の携帯とはビミョーに違うカタチになっていて
いろいろ思い出す友人の名前は一切なかった。
垂れ幕のお店の左側に小さいショッピングモールの入り口があって、売れそうもないバックや服を均一価格で売るワゴンが仕舞い忘れた様に置いてあった。
店員は居なかったけど、傍らに所在なさげに太った男がブツブツ言いながら立っていた。
最初、精神薄弱者が独り言を呟いているのかと思ったけど、近づいてみると伊集院光にそっくりで、例の口調でさかんに何か話しかけてくる。
伊集院だろうと聞いても返事をしないので、しつこく聞くと‘今俺達の一族はあまり人気がないので今なら安い値段でファミリーになるコトが出来るよ’という意味のコトをちょっと不満げにしゃべった。
伊集院は何人もいるらしい。お金をはらって何かすると同じカタチになるというコトのか…
どうやらパラレルワールドに来たらしい。
車ごと5人も一緒に来られてよかったね、と言ったものの、
皆あまり賛同しているカンジもないし、
かと言って深刻に困った様子もない。
‘先が長くなりそうだから今のウチにトイレに行っておこう’と女性達が言い出したので、
そのままショッピングモールの中に入った。
彼女達がトイレに行っている間、モール内の閑散としたフードコートをうろつきながら遠い昔仕事でビデオクリップを作った曲の替え歌をふと思いつき、‘あなたもパラレル 私もパラレル’などと歌い出すとすぐに、側にいる友人とお互いを指さしながら陽気に盛り上がった。
ちょうど彼のツボに入ったらしく、たまに少し身を捩らせまでして笑っていた。
不安を感じている様子は微塵もなかった。
その友人は女装というワケでもないけど、スコットランドの民族衣装に似たカタチの白っぽいサテン生地のスカートを履いていた。
いつの間にか随分痩せてしまっていた。
もともとそういう趣味だったのか、この空間に入ってから徐々にそうなったのかもう今となってはよくわからなくなっていた。
とりあえず、自分もトイレに行っておこうと思った。
2006年11月3日金曜日
2006年9月18日月曜日
井の頭線
ちょっと山奥の、おそらく元々何も無かった山林を
テキトーに切り開いて無理矢理作った観光施設に行く。
ありがちな巨大ログハウスふうの造りだ。
道を渡った向かい側に「無料露天風呂のある施設も併設」
というコトらしいので行ってみるコトにした。
前の道のカーブがちょっとブラインド気味なのにミラーがないのでちょっと危険だ。
慣れない観光客が、フラフラ横断するというのに。
傍若無人な大きなダンプカーがたまに通るのだ。結構なスピードで。
でもそういうコトは全く気が回らない
そんな荒っぽい、ザックリした雰囲気が全体的に漂う土地柄だ。
道を渡って…温泉施設までは、演出なのか怠慢なのか、道らしい道は整備されていない。
やたら伸びた芝生の上を裸足で歩く。
しばらく行くと突然、一面黒い碁石くらいの大きさの玉砂利が敷き詰められて、水が流れている場所に出くわした。
裸足で歩くとなんとも気持ちいい。
連れに勧めると、スニーカーのまま入ってくる。
ダメだよ。脱がなきゃ
入ってみると地元の老人達が集う保養施設のような趣。
もう入り口でお金を払うような雰囲気。
まずお金を払って入ったその奥に、小さい無料露天風呂がある、ということらしい。
なんだそれ!?ほとんど詐欺
(笑、ホントはお風呂に入るのにさらにお金が要るんだけど、それが無料…という説明)
やけにつるっとした、ストッキングを被ったような顔の男がはいってきた。
どうでもいいコトを抑制の利かない割れたしわがれ声で、しゃべり続けている。
観ているうちにどんどん表情がかわる。顔の筋肉が特殊らしい。
その男に惹かれてなのか、どんどん地元の人達も集まってくる。
彼らは何か優待パスみたいなモノを持っているんだろう。気軽にドンドン入ってくる。
ますます地元民のサロン状態が高まってきたので、帰るコトにした。
帰りはちょっと険しいトレッキングコース
苔むした、岩が崩れそうな道。
そんなトコロを杖をついた盲人の人も登ってくる。
降りたトコロにはちょっと大きな駅があった。
ちょうど電車が来ている。
井の頭線だ。乗り換えが面倒だけど、これにのって帰ろう。
走り出してしばらくすると、すごいカーブを曲がる。直角だ。
ゆっくり走っているのに、つり革に掴まっていないと立っていられない位。
風景も大きく動く…さすが住宅街を走っているだけあるな。
というか…なんか道の上っぽい…道の上だ。
そのうち、人がドンドン降りていった。見ると床に座布団があったので、それをひいて座った。
床は木製だ。窓からは秋の夕暮れの風が入ってきて、気持ちいい。
車内にはとくに照明はなく、薄暗くなってきた。
見渡すと、ちょっと離れたトコロにAsei君が座っている。
一人で楽しんでいるふうなので、そっとしておいた。
吉祥寺が近づいてきた。
駅前通りの空がぼんやりした紫色に染まって綺麗。
Asei君が、声をかけてきた。彼の親しげな声。
いつのまにか、前方のガラスが全部降りている。
二人並んで座って、夕暮れの中を進む、バス(いつのまにかバスになっていた)の前面に広がる景色をながめた。
もう乗り換えのコトはどうでもよくなっていた。
2006年2月3日金曜日
太鼓橋
ちょっとだけ蒸し暑い曇天の晩春の夕方
大きな公園の端にある、勾配を活かして作られた階段状のベンチに
2〜3人の仲間と座ってワインを開けてサンドウィッチを食べた。
食べ終わって立ち上がると、空になった容器やワインのビンなどが、
動く歩道に乗っているみたいに、ゆっくり下の方に移動していった。
その階段の表面は簾状になっていて、
座っている人達はそうはならないんだけど、
上に置いてあるモノは
「人の手を離れるとゆっくり移動していく仕組み」になっていた。
階段を下りたその先は幅の広い太鼓橋になっていた。
先ほどの簾はここにも ずっと続いて、いろんなモノがゆっくり移動していた。
その中になぜか短い文章を墨で書いた和紙も沢山あった。
それは置いてあるというより、張り付いていた。
歩きながら二つ三つ読んでみると、
いきなり涙が溢れそうになったけど、
一緒に歩いている人達にヘンに思われそうなので、我慢した。
‘それはそうなんだけどやっぱり……’
とか、
‘こんなに嬉しい気持ちになったのは、たぶん……’
とか
一見しただけではどうでもいい様な文章なんだけど
読むたびにその言葉にまつわる膨大な曖昧な記憶の塊がどうしようもなく浮き上がってきた。
その簾の上には自分の心の中にある個々の‘アイティム’が具現化して
流れていく仕組みらしかった。だからさっき食事した時の容器なども流れてくるし、
その時々に心に浮かんだ気持ちのキーになる言葉も具現化して流れてきていた。
太鼓橋の先は小さな池になっていて、
どんどんアイティムが流れ込んで行く。
そこで 簾から剥がれて浮かんでいるモノは記憶の外に、
沈んでいくモノは心の奥底に、
剥がれないモノはそのまま心の表面にくっついているモノらしかった。
さっき飲んだワイ ンのビンなどは浮かんだままぐるぐる回って何処かへ消えていった。
どんどん辺りが暗くなってくる中、僕はそこに浮かんで消えていく泡沫をしばらく眺 め続けた。
もう気持ちはすっかり落ち着いていた。
2006年1月4日水曜日
白洲正子さんから新年のご挨拶
年の瀬にアップルストアで購入したMac G5が12月30日に届いた。
4日にオタク風味の友人が来て新旧載せ替え作業をするコトになっているので
「なんとなくガイドブックでも読んでおこう・・・」
とアマゾンで良さそうな本を選んだら、送料無料になる1500円までちょっと足りない。
ちょっと考えて・・・内田百間の「御馳走帳」を選んでカートに入れてみると
すでに白洲正子さんの「夕顔」が入っていた。
全然入れた記憶がない。
「この前友人に白洲正子を勧めたついでにカートに入れたのかな…せっかくだからコッチでいいか」
年末に注文したら元旦に届いたので(さすがアマゾン年中無休だ…)
ガイドブックはトイレに(こういう本はトイレだ)夕顔はベッドサイドに置いて寝る前に読むコトにした。
そうして新年2日の深夜、ほろ酔いで本を開いてみると
冒頭に
「新年おめでとうございます」
と書いてあった。ホントに冒頭に書いてあった。
「そういうコト」は沢山起きる方なのでこの時も「なるほど・・」と思った位だったけど
確率からいうと、とってもとっても低い現象だよね。
(※新年に連載を開始したエッセー集だった)
敬愛する白洲正子さんに思いがけず新年のご挨拶を頂いた、コトは間違いない!?
2005年4月25日月曜日
2005年2月27日日曜日
真昼の好敵手
恐ろしい殺人者(というより宇宙から?のプレデターとい方が近い。少なくとも人間ではない)に追われ、ちょっと愚図な相棒と大きな倉庫に逃げ込んだ。
カラッとした日差しがそそぐ、真昼のコトだ。
とりあえず、倉庫の入り口近くにあった‘白い布団袋に入った何か’を
片っ端からうず高く積み上げて、簡単に入ってこれない様にするコトにした。もしもこっちに気がついてやってきたら、そこで手間取っている間に裏口から逃げる寸法だ。
どれくらい時間が稼げるか分からないけど。
とりあえず、かなり積み上げたので通風口からちょっと外の様子を伺ってみるコトにした。
かろうじて人間の形をした黒っぽい芯、の周りから炎が吹き出している物体は、歌う様な声を発しながら楽しそうに半ば狂ったように走り回っている。
泥がすっかり干上がった砂漠の様な地帯、真昼の日差しの中。
突然、空から巨大な巨大な深海魚(鱗が光線の加減で金色にも見える)がアタマから地上に刺さる様に降りてきて、暗殺者に挑みかかった。尻尾は、はるか上空にまで伸びていて見えない。
傲慢な紳士がステッキの先でアリを殺そうとするごとく、暗殺者の上にトントンと襲いかかる。
顔の縦幅だけで7メートルくらいありそう。
ボーリングハンマーのような動き。
真昼の、砂漠の様な荒れ地。炎を発する人。金色の鱗の巨大深海魚が空から…20世紀後半のシュールレアリストの絵画の様。
「これはいい勝負かもしれない、よしよし…」と思ったのもつかの間、ちょっと目を離した次の瞬間に、巨大な深海魚は全長10メートルそこそこの龍に変化して空中にフワフワ浮きながら暗殺者の後ろに従い、もう一つの倉庫に入っていくのが見えた。
「中で一対一でケリをつけようや…」という話になっているらしかった。とんでもないモノ同士、何か通じるモノがあったのだろう。
後ろ姿には早くも好敵手同士に芽生える友情の様なモノが漂っていた。
「いまのうちに出来るだけ遠くに逃げた方がいいだろう」と考え、
彼らが倉庫のドアから入ったタイミングを見計らい、加速装置をオンにして(私には付いているが相棒にはついていない…まあ、なんとかなるだろう)
倉庫を飛び出し逆方向へすごい勢いで走り出した。一気に周りの風景が流れる様に歪む。
が、しばらくするとそれは無駄だと分かった。私が逃げるべき方向、その先の空間はちょうとチーズケーキのワンピースの様に先細りになっていて、その同じ空間が
ケーキの様にグルッと周囲を取り囲んでいた。
左右にグルッと取り囲むように、モチロン正面にも全速力で走る私がいて、チーズケーキの先端以上は進めない。
何者かのしかけた罠…というよりこの加速装置特有のバグなのかもしれない。
「一定速度を超えるとこうなってしまうのだ…」と
その瞬間にアタマの中で、既に承知のコトとして理解した。というか知っていた。
でも諦めて走るのを止めたとたんにその空間の歪みは消失して、
右側に小さい切れ目が現れたので、その中に入ってみた。
もう、暗殺者とは無縁の平和な郊外、埼玉県の奥の方らしかった。
畑の向こうに、屋根に大きな大きな歯車を乗せた木造の民家がある。
歯車はゆっくり回転していて、家全体もそれにそって傾いて回転している様にみえる。
近づいて…中に入ってみると壁は全部、その歯車から釣り下がっている簾状のモノで、夕方の日差しや、心地よい風が、簾を通して入ってくる。
なんなんだろう…その地区に伝わる、伝統的な造りらしかった。
なんらかの宗教的な意味も込められているらしかった。
主人が満足そうな顔でお茶を勧めてきたので、一緒に飲んだ。
しばらくすると風も強まり、ちょっと寒くなってきた。
「夏ももうじき終わりだな」ちょっとだけ寂しい気持になった。
2005年1月9日日曜日
ジロウとタスカン
何かのパーティーの帰り、ジロウが車で来ているというので、ついていった。駒沢通り槍ヶ崎交差点〜恵比寿間の様な場所に路駐してあるのはパールブルーの新車のタスカンだった。
どうしたの?と聞くと「冗談半分でローンを申請したら通ったのでとりあえず買ってみた」と笑みを浮かべながら言う。
お金もないのに、大丈夫なのか。ジロウは全く気にしていない。
でもその車がジロウのモノであるコト、は自然な当たり前のコトにも思えた、と同時に、確かにそれは気にしなくてもいいコトなのだと思えた。
内装はタンだった。細い横畝がはいったバケットタイプのシート。走りながらジロウは「ああ、ここはこうなっているんだ…」とか「なるほど…」とか、いつもの冷静な口調で盛んに呟いている。ホントに買ったばかりなのだ&ちょっとアブナイんですけど。
予想とは裏腹に滑るように静かに走る。目の詰まった低く太いエンジン音がかすかに聞こえてくる位。
どうやらタスカンの形をした、別の車の様だった。
ライトが点いていないのか道が暗い。でもジロウに言うと「僕には見えているよ」みたいなコトをいう。ホントにそうなのか、彼流のうそぶきなのか分からなかった。
そのうちトンネルにはいって、何回か分岐を経た先、路上に崩れた瓦礫がぼつぼつ落ちている。
「これは底をこするぞ」と思ったら、彼はその手前で車を止めた。
道の真ん中。降りるつもりらしい。
「セキュリティーボタンを押してくれよ」と言うのだが、ドアに三つついているボタン状のモノはどれも小さくて、機能もよくわからない。もう一度教えてもらうと声が「そんなコトもわからないのか…」みたいなムードいっぱいになっていた(笑)
それはドアノブのすぐ下についている、5ミリくらいのドームトゥイーターにしか見えないスイッチ?で、円周に沿って小さくセキュリティー何々…と英語で書かれている様だった。分からないよ(笑)これじゃあ。
ボタンを押すと、作動中のランプが三つ、点滅し始め、同時にウインドウが半分くらい下がって止まった。
(どういうセキュリティーなんだ…)
ボタンに集中しているうちに、トンネルの中から路上になっていた。埼玉の何処からしい。Y字路の真ん中に車は止まっていた。もう瓦礫は無かった。時間はお昼頃になっていた。
ジロウは何も言わず、すぐ横に建っている、真っ黒の、木造なのに4階建て、所々に正方形の窓がはめ込まれた建物に入っていった。
とりあえずタスカンを携帯で撮って日記にアップしようと思い、私は車の周りをうろついてポジションを探した。
上の方から「あそこにいるのは、アーティストってやつに違いないよ」と声がする。見上げると、建物の途中に小さいベランダ状のモノが突き出していて、そこから地元の住人たちか覗いている。
軽く会釈して、再び携帯を構えたりしているとベタっとしたモノがアタマの上に何か落ちてきた。太い毛糸によく噛んだガムを絡めた様なへんなもの。髪の毛についてなかなか取れない。どうやらベランダに「下を歩いている人に何かいたずらしましょう」とかなんとか書かれた札がかかっているらしい。
このヘンな建物でジロウがワークショップを開催しているのだった。
それっぽい女の子が私の横に来て「この車をバックにジロウさんのサインと一緒に写真が撮りたいですぅ〜!」なんて言い出すので「じゃあ、どうせなら本人がいいでしょ?中に入ろうよ」と一緒に中に入ると、中にはさらにそれっぽい(笑)男女でいっぱいだった。やたら親しげに話しかけてくる女性もいて、どうやら昔付き合ったコトのある女性らしかったのだが、名前が思い出せない。困ったな…
しばらくすると、今度はジロウの提唱している(実際はしていないと思うけど(笑))マラソンをしながらアートを鑑賞する、というイベントの時間が近づき(精神状態の変化、芸術と健康増進の合致など、いろいろ御託があるらしかった)山伏っぽいデザインのジャージに着替えたジロウを先頭にどんどん外に出て行く。
私も一緒に外に行きたかったんだけど、先ほどの女性や、飲み屋の主人ふうの熱心な地元の主催者などに話し込まれてしまい、なかなか解放してくれない。中がどんどんガラガラになってきて、私と主催者と、その奥さんらしいフィリピーナの三人になってもまだ、話は続いた。もう、マラソンは出発してしまっていた。
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※自宅から眺めるトラックが走らない東京の遥かな空


