何処が悪いというワケでもなく、なんとなく定期診断の様なつもりで。
帰りがけにアドヴァイスを書いた紙を受け付けでもらったけど、
「歯の健康に気をつけて、歯にいいモノを食べましょう」
みたいなコトしか書いてない。しかもちょっと勿体ぶった雰囲気。
「この医者が若い頃…昔はこれくらいのアドヴァイスでみんな有り難がったんなしょうがないな…」
ちょっとむっとして
「だから、何がいいのが具体的に言ってもらわないと現代の人は納得しませんよ」
彼に反省を促す意味でも、奥まで聞こえるような声で看護婦にくってかかる。
まあ老先生には何を言ってももう、効き目はないかもしれないが。
年をとってますます頑なに、でも表面的には柔和な柔軟な姿勢を装っているトコロが
ちょっと気にくわない。
診察室に戻ってみると、彼は診察室のベッドに横になっていた。
隣に看護婦も寝ている。
といっても、何かあやしげなコトをしようとしているワケではなく、
ただ横になって本格的に寝ようとしているだけみたいだった。
まあ…そもそも何か、納得がいく話が聞けるワケもないし…引き上げるコトにした。
そもそも、もう半分寝ているし…
自転車で帰る途中、夕暮れの、日が落ちてしばらく経った蒼い空に、音もなく円盤が出現した。
マットな真っ白い胴体が、蒼い空の色に染まって綺麗だった。
単純にとても美しくワクワクしたけど、ちょっとだけ不安でもあった。
円盤部分の周りに、三つタービン状のモノがついていた。
最初「円盤型の乗り物があるのだな。なるほど。アメリカが極秘に開発した戦闘機が解禁になったのかな」などと思っていたけど
飛び方が、どことなく地球のフツーの飛行物体と違っていた。
空気を噴射して動いているのだとすると、ちょっと不自然だった。
早すぎたり、不自然な姿勢でホバリングしたりしていた。
見ているうちに段々イヤな気がし出した。
異次元から現れた「何かの顔」が動いているようで、
別に目がついているわけじゃないのに、見られている様な気がしだした。
それにそもそも低いトコロに小さいモノが浮いているのか、
上空高いトコロに巨大なモノが浮いているのか、はっきりしない。
そのうち、何かを発射し出した。ゆっくり降りてくる、短い光るギザギザの線状のモノ。
建物に当たると「ジッ」と誘蛾灯に引き込まれた虫が焼けるような音を立てて、跳ね返っていった。
どうやら、建造物の堅さ、材質などを調査するための、光線らしかった。
デジカメで写真も撮りたかったけど、見られている様な気もするのでやめた。
カマキリの顔が獲物を追ってクルクル動く様に、滑らかにちょっと不吉にその円盤も動いた。
なんとなく…ちょっと隠れた方がよさそうだ。
金沢の旧市街地にいたので、まわりは細いクネクネした道の続く、古い街並みだ。
遠くの方から、街のざわめきらしきモノは聞こえてくるのだけど、私の周りに人は全くいなかった。
いよいよ、次の段階に移ったのか、今度は別のモノを発射し出した。
木が勢いよく燃えている時に出る、青灰色のモヤモヤした煙を円筒状にギュっと圧縮した…そんな様なモノ…。
音もなく、円盤からまっすぐ地上に、あっという間に到達する。
今度のは、ものすごい速さだ。
斜めに建物を貫通して、地面まで届いた。
燃えるワケでも、爆発するワケでもなかったけど、とりあえず関わりにならない方がよさそうだ。
私は空を見上げない様にしながら…
なるべく細いクネクネした道を選んで自転車を走らせた…
そのうちに円盤も見えなくなった。